第二回Kino-Kuni文學賞発表


※沢山のご応募ありがとうございました。大賞・優秀賞の発表となります!


総評

第二回Kino-Kuni文学賞へのご応募、誠にありがとうございました。今回も前回を上回るご応募を頂き、ありがとうございました。文章の水準も前回から大幅に上がり、比較的年齢の若い方からの応募も増えた第二回でした。昨年、講評担当者が心筋梗塞で倒れたため、Kino-Kuni文学賞は第二回で終了となりますが、(第二回時に講評分を入金頂いた方には、責任を持って送付いたします)和歌の浦という場所で皆様の作品を読めたこと、とても嬉しく思います。

 

さて、昨年、地方文学賞が果たす役割とは、多ジャンル・多テーマ・多様な価値観の作品を排出出すこと」だとお伝えしました。「必ず売れるジャンル」だけを作家が狙うようになった時、文化は終焉に向かいます。文化とは異質なもの同士の融合によって芳醇な時を迎え、その異質さを下支えするのが地方文学賞の役割だともお伝えしました。

 

その通り、第二回にも一般では書籍化できないような作品も多く寄せられました。電子書籍化が本格化する時代には、必要になるのは「知名度」です。今まで出版社が担っていた役割には「作者の代わりに、作者と本の知名度を上げること」がありました。各個人が電子書籍化を始めた時、この知名度を持っていない作家は、どんなに良作が書けても売れないということになります。自分の知名度を上げるためにはどうしたらよいか?を考え続けて下さい。例えば、①受賞する事 ②有名な人に宣伝してもらうこと ③コアな読者層を形成する事 です。いずれも大変なことだとは思いますが、案外紙の書籍時代から変わらない者でもあります。Kino-Kuni文学賞受賞作はいずれも、他の賞に送ったり、個人的に出版して頂いて構わないようにしております。是非受賞者は、自分で出版までしてみてください。そして惜しくも受賞に至らなかった方々は、他作品への講評を読み、自分の作品を振り返ってみてください。

 

今回で終了となってしまうKino-Kuni文学賞ですが、ここまで皆様に愛されたことを感謝いたします。尚、最終に残らなかった方には、応募要項を守れていない方が多かったため、是非とも他賞に応募する際には、応募要項の熟読をお願いいたします。(一般社団法人紀州文藝振興会)

 


大賞受賞作


大賞『迎え火』 狐伏澤つたゐ

 主人公の少女「はちこ」は、老人ばかりになってしまった村の、最後の四人のこどもの一人として、いずれ子孫を作ることを期待されつつ成長していく。そんな特殊な設定ながら日本のどこかにありそうな海辺の過疎地を思わせる現実感は最後まで手放さず、手触りのある和製ファンタジーとして詩情豊かな作品に仕上がっている。

 

 なぜ老人だけになったのか、なぜそのような危機的状況にあるのにあくまでも排他的な営みを続けるのか、といった部分は判然としない。しかし大人になる過程で見た情景や、気持ちの揺れ等、細部が丁寧に書き込まれていて、あいまいなこの世界を作中の人物らと共に手探りで体験するような独特な読書体験ができた。

 

 何より良かったのは、物語の展開が予定調和的でなく、意外性があった点である。例えば、同じ境遇、同じ年齢で、双子のように育つ「りり」との、繊細かつユーモラスなやりとりに読みごたえがあり、閉塞された世界での友情関係を描き続ける物語なのだろうと思っていたら、「りり」は途中であっけなく死んでしまう。淡々とした冷静な文体が浮き彫りする世界観に圧倒的な独創性があった。

 

 遠い昔の、遠い場所を想定した架空の物語として読みつつも、超高齢化社会、少子化、過疎と災害、ジェンダーなど、今日的な社会問題の暗喩としても響く面が随所にあり、多くのことを考えさせられる。詩的な広がりのある確かな描写力は、小説を書くということの確かな火照りを宿している。(東直子審査員選評)

 

大賞『カルブレイス・ラプソディ』 古橋智

主人公の栄左衛門は、黒船が来航した浦賀奉行の与力。突然のペリー来航に驚く浦賀奉行は、時間の猶予もないまま交渉全般を任されることになってしまう。主人公が交渉に奮闘するが、突然のことだから中々、埒が明かない。しかも、ペリー来航を幕府や浦賀奉行の上層部は事前に知っていたという。事前に交渉準備を整えていればもっとうまくできたのにと、栄左衛門は裏切られたように感じるが、身を粉にして、黒船との交渉をやり遂げる……というお話。

 

黒船来航における史実を元にして、異国間の文化観まで描ききった大作でした。筆力、テーマ設定、登場人物の魅力も申し分なく、満場一致で大賞に決まりました。特に登場人物は、一方的に断罪するのではなく、黒船側と幕府側それぞれの正義を描き切り、血の通った人物として仕上がっていました。

 

ペリー側と幕府側の丁々発止の交渉も、ややもすれば単調になってしまうところを、息をつかせぬ展開と仕上げており筆力の高さがうかがえます。時代物を描く時には、その時代のニオイ・空気感・倫理観を描くのが大変難しい問題となります。着物を着たことのない現代人が、着物での所作を文章中にに覆わせることは大変ですが、この作品ではキチンと時代感が出ていました。この筆力と調査力を持って、さらなる大海に漕ぎい出して欲しい作家です(一般社団法人紀州文藝振興会)


優秀賞


優秀賞 『探しものはなんですか?』みずの瑞紀

 

 生徒会長を務め、成績優秀で、ルックスもよく、本を読むことが大好きな高校生。そんな絵に書いたような優等生の香坂愛束が主人公だが、図書館の本をなくす、という象徴的なエピソードによってぐらつき始める。完璧に見える人間の、その内面を率直に描き、人間関係に対する新しい気付きを与えてくれる。

 

 

 文化祭行事という高校生にとっての一大イベントを軸に、恋愛、友情、ライバル、そして自分が自分らしく生きていくということはどういうことかが、エピソードを細やかに重ねて浮き彫りになっていくところがよかった。「探しものはなんですか?」というタイトルが、なくした本を探すという最初のエピソードであり、自分自身を探すことである、という全体のテーマにもかかっていて、工夫が感じられた。等身大の青春小説を、誠実に描きつつ、生き生きとした台詞も効果的で、最後に爽やかな希望が残るところも気持ちがよい。(東直子審査員選評)

優秀賞 『ペトロの勇』南理維

去年とは打って変わって、大賞・優秀賞共に時代小説となりました。

 

主人公は織田信長の嫡孫・織田秀信。舞台は関ケ原の合戦の直前。秀信は今まで家老の言うがままに生きて来たが、秀吉の遺児・秀頼に同情し、関ヶ原の合戦では西軍に与する決断をする。家臣からは猛反対にあい、味方からは裏切られ、難攻不落の岐阜城は、わずか1日で陥落。キリシタンとして洗礼名「ペトロ」という名前を持ちながら高野山に送られた秀信が最期の日を迎えるまでを、丁寧に描き切りました。

 

筆力・登場人物力も、このまま出版されておかしくない程に完成されていました。特に登場人物たちの心の熱さは、紙面からほとばしっています。映像として浮かびやすい文体のため、とても読みやすく、現代の忙しい読者にもうってつけです。人物の言葉使いも大変よく、時代小説界の新しい風となりそうな作家です。(一般社団法人紀州文藝振興会)


ご応募、誠にありがとうございました。