第二回Kino-Kuni文學賞佳作発表


※大賞 特別賞 審査員特別賞は 別ページに記載しております。


応募要項について

この度は第二回Kino-Kuni文学賞にご応募いただき、誠にありがとうございます。

総評は「大賞・優秀賞」の方に書きましたので、そちらをご覧ください。

 

ここでは2点、小説家になりたい皆様へのお願いを書きたいと思います。

 

①応募要項は公式サイトのものを見ましょう。

今回頂いた応募原稿のうち、一次審査で落ちた方の9割が応募要項を守れていないという理由でした。これは当賞だけの傾向ではありません。つまり、応募要項さえ守っていれば、一次通過は全く夢ではないのです。是非文学賞に送る際には、「応募要項」を公式サイトから確認してください。

公式サイト以外の情報は、昔のものや別のものを使っているケースが多々見られます。公式サイト以外の情報を鵜呑みにしないようにしましょう。

 

②応募要項は小説家になるための訓練。

小説家になれば、編集者から「**日までに、**枚の小説を**形式で送って欲しい。テーマは**」という風に送られてきます。「小説賞の応募要項」は、「小説家になったときの編集部とのやり取り」と同じことをしているのです。

たくさんの賞に応募し、たくさん、小説家になるための訓練をしましょう。

 

 

一次審査で落ちた方にも大変優秀な作家様が何人もいらっしゃり、大変勿体ないことでした。次は是非、気を付けてみてくださいね。選評者の長期療養につき第二回で終了となりますが、二年間、本当に、ありがとうございました。

*東先生より選評をいただきておりますので、追記いたします。(東直子審査員選評)と記しているのが先生よりいただいたものです。


佳作受賞作品


『太陽を切る女』赤井晋

非常に情念の高い作品で、圧倒された。主人公が、「あなた」という二人称で語られるため、常に神的目線の下で行動を操作されているように見え、独特の読書体験だった。泥人形を使って人を呪い殺す力を得た少女の衝動が、淡々と描写され、その怖さがひたひたと迫ってくる。人を憎むということはどういうことなのか、人間が生きている上での望みは何なのか、深い問いを投げ掛けてくる一方、どうしようもないほどの孤独を強いられることになったこの少女が、なぜこれほどまでの特異な力と心を持つことになったかの動機が知りたくなった。(東直子審査員選評)

 主人公は「あなた」。一見普通の高校生だが、実は粘土人形に念をこめれば、ハサミで誰でも殺してしまえる力を持っている。だがある日、自分の体から「色」が剥げはじめて……。という筋書き。ほとんどが字の文で進んでいき、主人公=読者の台詞も、周辺人物の台詞も余り出て来ません。

 とても意欲的な良作でした。今後の課題としては、一字下げミスや誤字脱字、章ごとに作風がやや変わってしまう点を直してゆくといいでしょう。また、人物同士のやり取り(台詞)の表現力を高めていくことで、一歩上の作家になれると感じました。比喩表現や文章やコンセプトがとても良い、今後に期待できる作家です。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『黄泉の桜が舞う夜に』 緒方あきら

桜という木に対する共通認識の一つである「根本に死体が埋まっている」という言い伝えを、カジュアルな日本語で今日的設定の中で描いた点が新鮮だった。夜桜の下で美しい女性と出会う、という幻想的な場面から入りつつ、三十歳の若さで仕事にあぶれてしまう、という、現実的な背景を持った若者が関わる。そのリアリティーのある物語展開が、幻想味だけにかたよることなく、読みごたえのある短編として最後まで一気に読ませてくれる作品となった。(東直子審査員選評)

 無職になったばかりの主人公は、桜の下で美しい女と出会う。女は「私が死んだら桜の下に埋めてくれ」というが……?というあらすじでした。古来から、桜モチーフの作品には有名なものがいくつもあります。『桜の樹の下には』や『桜の森の満開の下』は特に親しんでいる方が多いでしょう。

 今作は、それらの文学作品から作者なりの「桜」を見つけて描き切った点が高評価でした。文体も明治大正昭和の文豪のそれに近く好感が持てました。台詞・字の文・コンセプトとほぼ及第点を取れているため、今後の課題としては、何らかの形で、一歩突き抜けたものを持つことです。是非今後も描き続けて下さい。作者の今後が、楽しみです。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『美人窟の少年』 紙島創

大阪をさまよっていた記憶喪失の中国人少年、という最初の登場から謎に満ちていて、引きつけられるものがある。NPO法人の人々に助けられながら、少年が自分の出自を探っていく過程は、サスペンスを解いていく興奮とあたたかさがあり、読み進めることが楽しい。その後、少年の出身地である敦煌へと舞台が移っていくが、丁寧に取材されたと思われる内容を下敷きとした描写により、秘境探索の醍醐味を堪能できる。(東直子審査員選評)

  海外を舞台にした作品で、ルポルタージュ的傾向すら持っている小説でした。大阪をさまよう記憶喪失の中国人少年は、日本のNPO法人に保護される。少年を両親のもとへ帰す為に中国に飛ぶが、少年の両親はウイグル族を支援した罪で台湾に逃げていた。少年は敦煌・莫高窟に向かうが……というあらすじ。

歴史・社会問題を得意分野にしている作者だろうと感じました。課題としては、「小説」になりきっていない点です。特に今回のコンセプト上、違和感が出るのは当然だと思いますが、それを補うために他の作家がどんな技術を駆使しているかを調べてみてください。また、知識は匂わせる程度にし、入れすぎないようにしましょう。とはいえ、ここまではっきりと自分の得意分野を持っている作家も珍しいです。この得意分野を活かす為に、小説とルポルタージュの違いを認識することが大事です。それさえできれば唯一無二の作家になれるでしょう。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『飯場の子』 北島君恵

昭和38年という、時代の転換期にあった日本の片隅に生きる少女にスポットを当て、当時の一面を如実に描き出したという点でとても興味深い。炭鉱夫の家の人が差別を受け、その子どもが疎外されていたというのは、歴史的な事実なのだろう。その状況の中で少女が思わず犯した罪とその経過は意外性があり、その心に寄り添いながら、国が発展していく中で何が犠牲にされていたのか、など、歴史を人間の心に立ち返って考えさせられるきっかけになる。最後は早急にまとめてしまった感があるのが、少し残念だった。(東直子審査員選評)

    1964年度東京オリンピックの前年、「飯場の子」の主人公は、家が貧乏だという理由で教員に差別され、その教員を殺してしまう。2020年東京オリンピックがひらかれる中、 主人公は自分の半生を回想するという筋書き。

まずタイトルのよさに惹かれました。作品の内容を簡潔に表しながらも情感が出ている良いタイトルです。今後の課題としては、15枚という短さのせいでもありますが、まだ筋書きの段階であり、小説になりきっていないように思われます。コンセプト・テーマ・起こる事件・主人公の生い立ちなどが良いため、作者の発想力や関心のありかには非常に期待が持てます。その長所を生かす為に、是非字の文や台詞の練度を上げて見てください。それさえ出来れば、読者の記憶に残るものを描ける作者です。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『迷子の栞』 君影港

 蔵書がたっぷりある祖母の家で、行方不明の栞を探すという目的で読書をはじめる女子高生の「私」。やがて、「私」と、本の中の女子高生「汐莉」の生活が、パラレルワールドのように響きあう。誰でも一度は少女であり、その胸にあるロマンティシズムには共通性がある、ということを改めて感じ入らせてくれる美意識のある文体である。そのこだわりが、やや読みにくくしているきらいはあるが、世界観を貫いている点は評価したい。(東直子審査員選評)

 

   近未来に生きる主人公。今では珍しい火・窓・書物がある祖母の部屋で、栞を探して欲しいと言われる。栞は見つからず主人公は祖母の書籍を読む。書籍のなかの主人公と、主人公の行動・思考がリンクして行って……というあらすじ。

比喩表現もうまく字の文の巧みさがきわだった一作。台詞に関しても普遍性があり期待が持てる。課題としては、「近未来に生きる主人公」の場合、設定説明だけでページを費やしてしまうことがままある。15枚という短さを考えると、主人公を現代の子にした方がスッキリと読めただろう。また、後半、書籍の中の小説の引用が増えてしまうため、その部分を減らして主人公の言動を描写した方が良い。いずれにしても、字の文・台詞ともに良く、今後に期待がもてる作者だった。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『あかね』 轂冴凪

中学生の天音あまねは、転校先で茜という少女と出会い、親友になる。私もなんども転校した記憶があるのだが、知らない世界へ入っていくときの不安感とともにあるちょっとわくわくした気分を思い出した。そんな中、ごく普通の少女に見える茜の、少しだけ普通ではないところがある、という設定が、かえってその神秘性を際立たせていて、文学としての機微を味わうことができた。思春期ならではの危うさや、同性に対する独特の感受性が、不思議さに満ちる物語展開のなかで生かされ、独自の感覚が伝わる。(東直子審査員選評)

   主人公は茜という名前の不思議な女の子と出会い、茜に慕情を抱く。だが、茜は昔神隠しにあったことがあり……というあらすじ。

比喩・字の文・台詞ともに一切の文句なしの作品でした。主人公の一人称には、作者の性格が一番現れます。この作者は非常に穏やかで、あたたかな視線を持っている方なのでしょう。読みやすく・美麗で・しかし素朴な文体に強く惹かれました。作者独自の文体も持っているため、この文体と視点を持っていれば、純文学でも児童文学でもやっていけると思います。(ライトノベルや時代劇もやろうと思えば行けると思います)

課題としては、今作では神隠しにあう不思議な子=茜、凡庸とされる主人公=天音となっていますが、これを逆にした方が良いと思います。また、短編には手慣れているようですので、是非長編を作り大きな賞にも送ってみてください。期待しております。是非挑戦してみて下さいね。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『消しゴムが恋をする』 佐久間庵

消しゴムが主人公、という斬新な設定で、その存在感を生かしつつ、予想もつかない物語が広がっていく。全体的に短めのセンテンスでたたみかけるように描かれ、リズム感とスピード感がある。逆にいえば、描写があっさりしすぎているので、ときにはじっくり描写された部分があってもよかったのではないかと思う。いずれにしても、独自の視点から子どもの世界を覗くことによって、客観的に見える子どもの世界、という構図が興味深かった。(東直子審査員選評)

   主人公は、自分の持ち主の隣の席の女の子・ユミちゃんに恋をしてしまった消しゴム。まずこの発想がとても良かったです。続くあらすじも意外性の連続であり、起こる出来事も、一見すると普通にありえることなのですが、消しゴム目線なので全て楽しく感じるという良作です。結末もありきたりなものではなく練られており、非常に好感が持てました。

今後の課題としては、あらすじとコンセプトがとても良いので、読者対象を絞ることです。コアなファンがつきやすい文章ですが、それは、それ以外の読者からは反感を買いやすい文章を意味しています。それ自体はとても良いことですので、自分の読者層がどこにいて、どんな出版社からの本を読んでいて、先行作家にどんな人がいるのかを調査してみてください。そしてその作家が本を出しているところの賞にも送付してみてください。また、前半の書き込みに比べて、後半は息切れしたのかやや雑になっています。是非後半まで描き切る体力をつけて、次の作品に挑んでください。

とても良いコンセプトとあらすじの作品でした。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『真夜中の展覧会』 土方悠旗

真夜中の展覧会会場の絵の中の人物たちが生き生きと動き回り、心を交わしあう様子は、わくわくする楽しさがある。ですます調で描かれる絵の中の世界は、昔話を聞いているような感触があり、内容によく合っていた。絵の中の少年が、絵の中の少女に恋をして、その少女に直接会うために数々の絵を通り抜けていく、その途上で起こるドラマ展開は、『星の王子様』や『青い鳥』を彷彿させる。最後に、少年の冒険によってもたらされる変化もウィットに富んでいて、こころあたたまる。(東直子審査員選評)

    誰もいなくなった真夜中の展覧会での出来事。児童文学としての入選となりましたが、文章レベルの高い作品でした。頭のなかでイメージしやすい文章で、一文も短いのでとても読みやすかったです。起こる出来事もワクワクして読める作品で、作品だけではなく作者の今後にも期待が持てます。

課題としては、似たような話を、プロの児童文学作家が沢山描いてしまっていること。(類似作が存在することは、あまり気にしなくてもよいのですが)知名度や受賞経験がない状態で、他の作家と似たようなものを描いてしまうのは致命的です。今後、ちょっと他の作品と違うようなストーリーやキャラクターを作れれば上に行ける作者です。それ以外に欠損のない上質な作品でした。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『葡萄色のシャンデリア』 蒔田莉々

グリム童話のラプンツェルの話を下敷きにしつつ、現代的なカジュアルな会話を中心として進んでいく点が、新鮮だった。古典的な異端者のアイテムを生かしつつ、作者の独自の切り口で再構築している点がよかった。物語を描くことの興奮に充ちた文章だと思う。反面、もう少し冷静に、じっくりと細部を描いた場面があってもよかったのではないか、とも思った。(東直子審査員選評)

   主人公のオーロラは、魔女によって塔の上に保護されていた。話せるシャンデリアのネフラと共に。ある日、人間の男が塔の外壁をのぼってきて……。というあらすじ。

いくつもの 童話をかけあわせた作品でした。シャンデリアにも秘密があり、魔女が善人で、というところに特異性がありました。

課題点としては、童話を下敷きにするには、インパクトのある別のテーマ・モチーフと掛け合わせた方が良い事です。また、前半はオーロラとシャンデリアの関係性、魔女とシャンデリアの関係性を後半を描いていますが、この前半部分で手を止めてしまう読者は多いと思います。前半部分に、インパクトのある物を持って来るなど工夫してみましょう。今度は童話以外をモチーフとした作品を書いて、独自の世界を展開してみてください。期待しています。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『消えちゃう魔法』 雪舟ユキフネ

いじめられっ子が自分の存在を消したいと考える、という悲しい心境を、ファンタジーの効力で、やさしくあたたかな物語として描き、救われていく主人公の姿に、物語の必然性を感じた。ポエジーのある文章で、童話を読むというより、叙情詩を読んでいるようだった。その分、そよ風が通りすぎたような読後感になってしまうので、魔法を与えてくれるユルギ少年に会うまでの葛藤などもしっかり描かれていれば尚良かったのではないかと思う。(東直子審査員選評)

   主人公は吃音を理由にイジメられている小学生。ある日、魔法使いだと名乗る少年と出会い、「自分を消して欲しい」と願う。ところが、かけられた魔法は母親の記憶から主人公を消し、主人公が消えても困らないようにするというもので……というあらすじ。

死にたがりの少女と、魔法使いの少年の組み合わせの会話は大変面白かったです。課題点としては、序盤のイジメ描写を減らして魔法使いの少年との出会いを早めること、改行を減らして字の文を増やすことです。事件や事故やイジメの描写は、なるべく短くし、描きたい場合もそれに対する主人公の反応で見せた方が、読者の負担が少なくなります。今作で言えば、原稿用紙3P目で少年が出て来るくらいでちょうどよいと感じました。起承転結や小説の基本ができているので、是非また描き続けて欲しいと思います。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『十年後』 渡り鳥

大変文章が洗練されており、描きなれている方なのだと感じます。序盤が長い一人語りで始まる作品にも関わらず、スラスラと読めました。また、この作者は「漢字をひらく」ことの意味をキチンと理解しており、漢字・ひらがなのバランスが芸術的に美しい。描きなれているのだとは思いますが、ただ漫然と描くのではなく、どうすれば読者が読みやすいか考えながら描いて来た努力の跡が見られました。

内容も、先の展開が楽しみになるほど面白く、タイトルの『十年後』の意味もラストでわかるなど仕掛けが豊富にありました。ただ、応募要項が守られておらず、佳作止まりとなりました。次回は、是非気を付けてください。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『消滅する乙女のためにしてあげられること』 トラキャット

大学生の涼太は履修するドイツ語の講師である青島教授に「ある女の子のために、僕とデートをしてほしい」と頼まれる。当日、青島教授が女装して現れるが……”というあらすじで、一気に引き込まれました。SF作品としての、ある種の理想形であり完成形と言える作品に仕上がっています。

テンポの良い作品で、台詞の応酬も楽しく好感が持てました。課題としては、①行頭下げや誤字などのミスが散見されたこと、②後半、青島教授の台詞量が多い事です。②に関しては、主人公の相槌や、字の文章での突っ込みを入れることで解消できます。とはいえ、その課題があったとしても良作品でした。映像化にも適した作品であり、シナリオなどに起こしてみてもいいかもしれません。今後改訂して、他の賞に送ったり、また別の作品を作ったりと創作の幅を広げて欲しい作家です。(一般社団法人紀州文藝振興会)


心理学者』 赤沢佳明

心理学者を題材とした作品は、近年多く見られます。この作品は、その中でも、伏線の貼り方がとても上手い良作です。登場人物の性格も、とてもよく練られています。主要登場人物の性別・年齢・性格のポジティブ度とネガティブ度が被らないように描いてあり、作者から読者への配慮が伺えます。

小道具としてのインコの使い方も大変うまく、描かれた内容が頭のなかにパッとうかぶ、映像的な小説に仕上がっています。課題点としては、やや読者対象が絞り切れていないように思います。エンタメ文學にしては文章が砕けており、ライトノベルというにはテーマやキャラクターがしっかりとしている。

ここまでの文章を書ける分、読者対象を絞り直して、再度執筆して見て欲しいです。大変力のある作家なので、読者さえ絞れてしまえばドンドン上に行ける方だと感じます。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『泥棒サンタのプレゼント』 山上不動

貧困、家庭崩壊、窃盗、虐待、殺人……といったテーマを扱う作品ながら、投稿作品のなかで一番暖かい作品に仕上がっていました。「ああ、読んでよかった」と読み終わった後に穏やかな気持ちでページをめくる手を止めるほどです。

ここまで様々な出来事が起こる作品を、キチンと所定の枚数に収められた筆力にも脱帽しています。物語を作る時には、「枚数を増やす」よりも「枚数を減らす」ことの方が大変です。その大変なことを、あっさりとやって遂げた作者の今後は明るいでしょう。特によかったのは、主人公が虐待されていた子供に「家族ごっこ」をしてあげるシーン。そのハートフルなシーンの裏で、実は殺人が行われていたという点でした。今後も、作品を作る時には是非、事件の裏と表を作ってください。

本当に良い作品・作風でしたので、今後も執筆を続けて下さい。(一般社団法人紀州文藝振興会)


流血する時間』 比呂智巳

時間以外のすべてが停止した世界に放り込まれた主人公は、ある少年と出会い……というあらすじ。起承転結がハッキリした作品ではなく、哲学的問題を主人公が語ってゆく作品です。退屈を感じさせてしまう恐れのあるストーリーラインを、ここまで楽しく、読みやすく制作したのは作者の筆力以外の何物でもありません。

課題点としては、字の文章が8-9割を占めて多い事、台詞に軽妙さが足りないことが挙げられます。台詞の作り方研究のために、人間観察と、他の小説家の台詞研究をしてみてください。字の文章も多い以外には問題点はないので、台詞さえうまくなればドンドン向上する作家だと思いました。

応募作の中でも、テーマの特殊性という意味でも際立っている作品でした。哲学的要素を追求しつつ、読者が読みやすい作品を心がけることで、この作者にしか描けない世界観を描くことも可能だと思います。大変特殊性のある作家です。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『桜鱗伝』 戸川桜良

母・桜鱗と暮らす主人公は、ある日、母親が人間ではなく蛇の化け物だと聞かされ……というあらすじで、古典時代劇とも、大賞昭和期の文豪が書いた王朝文学とも、児童文学ともとれる作品でした。

導入の文章が「これから物語が始まる」というワクワク感の出る造りとなっており、続く字の文も情景描写がうまく筆力の有る作家だと感じます。情景描写に関しては、今回随一の力を持っていました。また、母・桜鱗と主人公のかけあいも温かく、二人の過ごしてきた年月を思わせます。この二人の絆を、台詞と情景と行動だけで説明しきった点が高評価にもつながりました。

課題点としては、この作品傾向を好む読者層を見つけることです。出版社や知名度的にベストなのは、長編を書いて有名になり、今作のような短編をいくつも出すことです。是非今後は、その視点から長編執筆を心がけてください。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『花闇』 栄ヲトメ

まずタイトルで惹きつけられました。タイトルは、作品を手に取るための最初のフックです。このタイトルを作れたという点だけでも、作者の今まで筆力を高めるためにしてきた努力がしのばれます。

作品内容としては、導入に「謎」と「ハッとする台詞」と「普通は見たことが無いような情景」が含まれており、引き込まれました。文章力も、やや明治大正文学を思わせる節があり、世界観とよく合っています。

課題としては香耶のシーンになると、筆の勢いが落ちる点です。文体と、香耶の生きる現代がミスマッチだということもあり、今後は時代劇やファンタジー世界を中心に執筆しても良いかもしれません。

鎖に繋がれた男と、鴉。この組み合わせを好きな読者が、他にどんなモチーフが好きかと考えて是非次の作品も描いてみてください。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『思いやりビジネス』 黒田瀧

カリスマ性のある津川に、マルチビジネスに勧誘された主人公。妹に諭されてマルチビジネスを抜けて故郷に帰ろうとするが、新幹線が事故に遭う。言葉の話せない女と協力して逃げ出そうとするが……というあらすじ。このあらすじを所定の枚数に収めたことが、まず高評価に繋がりました。

課題点としては、台詞がやや演劇調でぎこちないこと、字の文に日本語として違和感のある部分が散見されることでした。テーマや100枚に収めようとする気概は十分作家として通用するので、今後、文章技術を向上させて作家として育って行っていただければと思います。真っ暗な新幹線のなかで言葉の話せない女と二人……などの舞台設定、とてもよかったです。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『ひーくんと私』 さわださとる

一人語りの字の文が、とても得意な作家です。主人公=一人語りが、「普通の子」として事件を俯瞰している分、その事件の概要のみならず悲惨な様子や人情味のある様子もクッキリと読者に見えてきます。

ある事件を解決するというミステリー調の話ですが、主人公のキャラクターがシッカリと立っているため、ミステリーに興味のない人でも読めそうな良作です。筆力も十分で、読みにくい点は見つかりませんでした。課題としては時たま、誤字や行頭下げミスがあるため、今後気を付けてみてください。探偵ものでもありますし、「ひーくんと私」の探偵バディでシリーズ化などしても良さそうですね。(一般社団法人紀州文藝振興会)


『ゆっくりと悩めるが如く』 仲原巴

 文章の始まりの一文に、痺れました。最初の一文が良ければ、読者はその後は大体読んでくれます。その意味で、行頭一文に凝った今作は良作と言えましょう。続く文章も比喩がうまく、テンポよく進んでゆくので、とても読みやすかったです。

課題としては、一文が長いこと、21枚の文章を十章に分けているためコマ切れに読めてしまうことです。一つ目は、一行を20文字に収める特訓をしてみてください。長い文章も作者の味になりますが、短く書けるようになれば作家としての幅も広がります。二つ目に関しては、創作中は章ごとに分け、投稿時に章分けにしないで送付というのがベターかもしれません。

とは言え、作品のテーマも良く、最初の一文も大変よく作り込まれていました。この調子で、ぜひ作り続けて作家として成長して欲しいと思います。(一般社団法人紀州文藝振興会)