Kino-Kuni文學賞 特別連載ライトノベル第5話

あらすじ
国家の財政が破たんし、イベント会場は動員人数と企画力・宣伝力で競うようになった2100年。『イベントプランナー』と呼ばれる国家資格保持者が活躍していた。なかでも歌詠玄人は世界最高ランクのプランナーとして評判が高い。その息子である赤人が、和歌の浦の地に降り立った!? 一人と一匹が起こす波乱万丈のライトノベル!

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――9月2日 午前10時 紀三井寺公園 球技場内

 

 球技場内のグラウンドにはゼッケンをつけた子ども達と、その保護者である母親達がワイワイと集まっていた。

「あら、キレイなグラウンドねえ」
「でも、ここはカフェが無いから……。飲食スペースはあるみたいだけど、地味だしあんまり使いたくないわね」
「そうよねぇ。練習が終わったら早く帰りましょう」

 思い思いに愚痴る母親たちの姿を見て、観客席に隠れていた三井が失意の溜め息を漏らす。

「あぁ、やっぱりキレイな喫茶店を併設した方がよかったかな」
「大丈夫だよ三井さん。元々この施設のウリは運動施設だから気にしなくていい。施設があっても維持する人材がいなきゃ意味ないしね。それに、手はもう打ってあるし」

 赤人がスマートフォンで連絡を入れると、珈琲や紅茶、シフォンケーキなどを携えた売り子が会場の観客席へ現れた。
 朝が早く朝食を摂れていない保護者も多かったせいか、売り子の商品は飛ぶように売れてゆく。


「サーバーを使ってエスプレッソコーヒーまで出してくれる運動場なんて初めてね。私、びっくりしちゃった」
「そうよね、このケーキも美味しい。もう一個頼んじゃおうかな」
「もう。誰よ。地味なんて言ったの!」


「おお、赤人君! みんな喜んでくれてるよ!」

「まだまだこれからだよ。これだけじゃ主役の子ども達が満足できないしねショウ、ペテロたちを呼んできてくれるかい?」
「わんわん!」


 ショウは元気よく駆け出すと、わざと子ども達の目に触れるよう、グラウンドの外周をぐるっと走り回ってからペテロたちが控えている小屋へと飛び込んでいった。

 すると中からペテロと小木が紀三井寺公園楽団を率いて颯爽と現れた。ペテロは慣れたものだが、小木や楽団のメンバーは不慣れなためか、少々ぎこちない動きをしている。

 

「あらあら、ワンちゃんが音楽隊を連れてきてくれたわよ?」
「犬の音楽隊? どんな曲を弾いてくれるのかしらね?」

「それでは始めマスよ! 小木サン!」
「はい! ペテロさん! いくぞみんな! エンディングから始めてひきつけるぞ!」

 ペテロが右腕を天高く振り上げると、その合図に合わせ、小木が指揮棒を振るう。 楽器は持ち運びができる小型のものばかりだが、その力強いファンファーレは球技場全体に響き渡る。

 ムソルグスキー作曲『バーバヤーガの小屋』のエンディングパート。

 曲の終わりにくる荘厳な大合唱を聞かせることで、試合の終わりではなく始まりの前の緊張が子ども達を包み込む。先程まで騒いでいた子ども達は背筋をシャキッと伸ばし、監督の指示の元、球技場の中央へと集まり挨拶を交わした。

 程よい緊張感の中、子ども達が各々のポジションに着くとペテロが左腕を水平に払い、小木が指揮の動きを大きくも小刻みに変化させていった。

 そっしてバーバヤーガの小屋のオープニングパートが始まる。弦楽器と打楽器による音楽の戦いが始まり、管楽器によるファンファーレで試合が開始。まるで子ども達の試合が演奏の一部であるかのように試合が繰り広げられてゆく。

「凄い、サッカーの試合とコンサートを一緒に観てるみたいね」
「映画のワンシーンみたいよ。ウチの子、あんなに格好良かったかしら」
「がんばれー! そこよー!」

 試合の流れに合わせて変化する演奏に保護者は見惚れ、子ども達は闘志に火が点いたように熱い攻防を繰り返す。
 そんな会場の一体感を感じながら、三井は感動の涙を流していた。

「赤人君……。私の紀三井寺公園でこんなにいい催し物を出せるなんて思わなかったよ」
「三井さん。日本一を目指すんだからこれくらいで泣いてちゃだめだよ。ほら、俺と一緒に試合の後のサポートも頑張ろう。クレープ屋さんとかドリンク係を呼んだりするの、俺だけじゃ大変なんだからね。それに、これからジャンジャン練習試合が入るから、毎日忙しくなるよ?」
「ふふふ、お客さんが喜んでくれる忙しさなら大歓迎だよ! 赤人君がこんなに手を尽くしてくれたんだ、私も一生懸命頑張ろう!」
「よーし、その意気だよ! 三井さん!」

 

――一か月後 和歌山ジャイアントホエール オーナー執務室

「これはどういうことだ? 9月の売上がかなり下がってるじゃないか」
 鯨田が怒りを顕わにしながら自らの腹の肉をつまみ、強く捻る。その形相に、秘書は旨と声を震わせながら答えた。

「この時期の大きな収入源となっているフットボールやサッカーの練習試合予定に関するキャンセルが相次いでいます。大会は滞りなく終了しているのですが、それだけでは減少分が回収できないのです」
「それはデータを見ればわかる! なんで練習試合ばかりキャンセルされているんだ! 大会だけではコンスタントに売上を上げられないだろう! 一体何があった! 原因は分かっているのか!」
「はい。どうやら当施設の練習試合をキャンセルした団体のほとんどが紀三井寺公園に流れているようです」
「紀三井寺公園……? なぜこんなに突然……。」


『――そんなことないよ、鯨っ腹のオッサン。三井さんは最高の助っ人を呼んだんだ。すぐにアンタのとこなんて追い抜いてやるよ。昔みたいにね』


「あの坊主、まさか……。おい、あそこが雇った赤人って坊主の調べはついたのか!」
「は、はい俄かには信じがたいのですが、紀三井寺公園側が雇ったイベントプランナーの本名は『歌詠赤人』。あの歌詠玄人のご子息で、10歳にしてアメリカのハーバード大学を卒業、在学中から現在に至るまでワールドクラスのイベントを手掛けているようです」
「う、歌詠赤人だと六年前、このワシの顔に泥を塗りよった歌詠赤人だと……。あのイベントを成功させていれば私は今頃……! ワタシが心血を注いだこのホールが消えていくのか……!」
「オーナー! 落ち着いてください。まだ道はあります! オーナー!」
「道とはなんだ!」
「歌詠玄人さんを雇いましょう!」
「そんな金があるか……! いや……。違う。金の問題ではない。……。やるかやらないかだ……。秘書、ついてくるか……?」

オーナーの問いに、秘書は姿勢を正した。

「私が、あなたについていかなかったことがありましたか?」
 破顔一笑。それでこのホールの未来も決まったようなものだった。オーナーはある気だし、秘書もまた、それに続いた。

 

その頃、東京ビッグサテライト執務室では……。

「ほう、赤人の奴が帰ってきたのか」

 歌詠玄人は秘書から書類を受け取ると、サッと目を通し氷のような笑みを浮かべた。普段のテレビ番組などでは絶対に見せることがない、玄人の本当の笑みだ。


「はい、玄人様。現在、赤人様は和歌山県にある紀三井寺公園を拠点としているようです」
「ふん、やっと帰って来たな。ふふ……。待っていたぞ。赤人。アイツはなかなかどうして才能があるからな。私のいいライバルになるだろう……。高い勉強台になるかもしれんがな。おい、今すぐ現地へ飛べ。赤人を徹底的にマークしろ」
「はい、わかりました」

 秘書が答えた瞬間、世界の『イベントプランナー』ランキングが更新された。そこには、『歌詠赤人』のランキングアップが表示されている。
「くくく……。期待しているぞ、愛しの我が息子よ」
 玄人の笑みの理由を知らずに、赤人は三井と喜びを共にしていたい……。

(終)

 

(前話)
Kino-Kuni文學賞 特別連載ライトノベル第1話
Kino-Kuni文學賞 特別連載ライトノベル第2話
Kino-Kuni文學賞 特別連載ライトノベル第3話
Kino-Kuni文學賞 特別連載ライトノベル第4話

 

 

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