Kino-Kuni文學賞 特別連載ライトノベル第3話

『イベントプランナーは15歳!?』

あらすじ
国家の財政が破たんし、イベント会場は動員人数と企画力・宣伝力で競うようになった2100年。『イベントプランナー』と呼ばれる国家資格保持者が活躍していた。なかでも歌詠玄人は世界最高ランクのプランナーとして評判が高い。その息子である赤人が、和歌の浦の地に降り立った!? 一人と一匹が起こす波乱万丈のライトノベル!月1回で連載開始!

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 「YEAH! 俺らのホーム、和歌山ジャイアントホエールに来てくれてありがとー! 沢山応援するから、みんな頑張って! 3・2・1」

「「わ・か・や・ま・ジャーイアンッホ―ム!」」

 

 『ホエールチアーズ』のロゴが入った、煌びやかなチアリーディング衣装に身を包んだ女の子達がアリーナの中央で見事なアクロバティック技を披露していた。

 その様子を、赤人と三井はアリーナの観客席から眺めている。片時も主人の傍から離れないダックスフンドは、しかし今は姿が見えない。

 

「ねぇ三井さん、あのお姉さん達は、なんでチアリーディングをやってるの?」

「これはね、赤人君、ホエールチアーズっていう、和歌山ジャイアントホエール専属のチアガールチームなんだ。ここのアリーナで試合を行う時は彼女達がオープニングで応援してくれる特別プランがあってね、全国区大会だけじゃなくて、一般向けの中小大会の会場としても凄く人気があるんだ」

「なるほどねで、チアを始めた4年前くらいから会場の運営が急成長してるって訳か」

「そうなんだよ、それまではウチの方がお客さんを呼んでたのにパッタリ勝てなくなってしまった。やはり『イベントプランナー』を雇うか、雇わないかで変わるね」

「ここの『イベントプランナー』の世界ランクは分かるかい、三井さん?」

 

 少年にため口をきかれた三井は頭が沸騰しそうになった。だが、こんな扱いも今だけだ、と妥協して、スマートフォンを取り出す。

 

「ええと……世界1030位だ。かなり高いランクの『イベントプランナー』だね。レベルは35だというよ」

「ふうん……」

 

 三井は、少年の勝気な笑みの理由はこの時はまだ分からなかった。

 

「まったく、恥ずかしい限りだ。私達は今まで『イベントプランナー』を雇えなくてね。これじゃあ祖父に顔向けができないと思って一念発起したんだ」

「でも、三井さんの代になってからグラウンドの質が良くなったって評判だよ。競技場としての役割は先代よりいいってね。何より、トイレも綺麗になったってさ。確かに、僕が昔来てた時は活気があったけど芝目は粗かったし、トイレもちょっと汚かった記憶がある」

 

「トイレ?」

「ああ。会場運営にはね、トイレの清潔度が重要なんだ。トイレが汚ければどんなに良いイベント企画でも人は離れる」

「へえ……しかし君が小さかった頃って、今でも小さいのにいつの話なんだい?」

「小さいって言うな1 もう15歳だ! たしか7年前だよ。生まれてから8歳くらいまでは俺もこの辺りに住んでたんだ。紀三井寺公園は家族と初めて行った大きな施設で、ずっと憧れてた。この施設でみんなと楽しく仕事をしたいって」

 

「嬉しいなぁ。私の祖父がとても大切にしてた施設だ。私も鼻が高いよ。そうか、あそこで働いてみたかったから、歌詠玄人さんのフリをして仕事を受けてくれたんだねありがとう。君が何であろうと関係ない。時々遊びに来て、お仕事を手伝ってくれたら嬉しいよ」

「もう、何度言ったらわかるんだよ三井さん。依頼通り、俺が紀三井寺公園を日本一の施設にするって。遊びじゃなくて、イベントプランナーのプロとしてね」

「ガッハッハ、日本一とは大きく出たもんだな、坊主!」

 

 鯨の頭のように大きなビール腹をポンポンと叩きながら、ジャイアントホエールの支配人、鯨田久地男(くじらだ くじお)が観客席へと上がってきた。

 その傍らには美しい女性秘書を連れている。女性秘書の胸の大きさに、少年はちょっとときめいた。

 

「鯨のようにおっきなこと言う子供はワシも大好きだぞ。どうだ、もう少し大きくなったらワシのジャイアントホエールで働いてみるか?」

「嫌だね。依頼人を裏切ることはしたくないし、俺は好きな施設で働きたいんだ。紀三井寺公園は俺の思い出の場所だ。それに、たかが世界ランク1030位を雇って満足するクライアントなんて嫌だね」

「ガッハッハッハ! たかがと言いおった! まったく大人の苦労も知りもせんで……。こりゃぁ特別、気のおっきな坊主だ! なるほど、これだけ肝の据わった坊主が『イベントプランナー』なら、なんとかしてくれ『気』になってもおかしくありませんな、三井さん」

「……」

「しかし『気』のせいだ! 『イベントプランナー競技会』で勝つのは今年もわたしだ。

 オタクんところは今年もランクをあげることはできるんだろう。が強力な助っ人を呼んだって言うんでちょっと様子を見に来ましたがガッハッハッハ! まさか真面なプランナーを呼ぶ金もなかったんですな!」

「…! なッ!」

「――そんなことないよ、鯨っ腹のオッサン。三井さんは最高の助っ人を呼んだんだ。すぐにアンタのとこなんて追い抜いてやるよ。昔みたいにね」

 

 赤人は涼しい顔で踵を返すと、出口へと歩き出した。慌てて三井はそれを追い始めた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい、赤人君!」

 慌ただしく消えて行った二人を見ながら、鯨田は顔をしかめさせた。

 

「赤人……。いや、まさかさっきの坊主が……。いや、そんなことはない。あの悪魔はもっと大人だ。あんな小便小僧の訳がない……しかし……『昔みたい』だと……?」

 秘書と鯨田は目をあわせ、首を傾げていた。彼らはまだ知らないのだ。これから自分たちの身にふりかかる災難を。和歌山ジャイアントホエール駐車場に、赤人は大股にあるいた。それを追う三井の息が切れるくらいだ。赤人は、子ども、坊主、ガキ、と言われるのが大の嫌いなのだ。

 

「わんわん!」

 赤人達がアリーナから出て駐車場にさしかかると、待っていたかのようにショウが飛びついてきた。

 

「よしよし、いい子だ、ショウ。店の数はどうだった?」

「わん! わんわんわん! わんわん!」

「ふぅん、まぁそんなもんだろうね人の比率はどうだった?」

「わん! わんわん!」

「なるほど、あとは……」

「赤人君、さっきからワンワン、クゥ~ンとやってるけど、君は犬と話せるとでもいうのかい?」

「当たり前じゃないか。あんたは話せないのか?」

 

 真顔で聞かれ、三井は一瞬戸惑った。話せるのが普通だったっけ?

 

「じゃ、じゃあ何をその犬は話してきたというんだい?」

「犬じゃなくてショウだ! 三井サンでもうちのショウを犬呼ばわりしたら怒るからね!

ショウには、調べ物をしてもらってたんだよ。お店の数とか種類とか、お客さんの比率とかね」

「あはは、赤人君は面白いことを言うね。犬が会場の下調べをしてくれるか、そんなことがあるわけないじゃないか。頼めたらどれだけ心強いか」

「それが頼めるんだよ、ショウにはね。例えば、この会場には露店が14店舗あって、そのうち子供・女性向けの露店はたった2つしかない。客層も成人男性が8割で、子どもと女性は2割だけだ。合っているでしょ?」

 

「ちょ、ちょっとまってくれ……。君はそれを事前に調べていたんだ。そうだろ? 犬と君が話せるわけがない」

「三井さん。世の中にはね、解明できていない不思議なことの方が多いんだよ」

 赤人は急に真剣な顔で言った。まるで、辛い過去を思い出しているような顔だった。しかしその顔もパッと変わり、いつもの活発で元気な顔になる。

 

「ま。しゃべるにもコツがあるんだ。あらかじめ質問の内容に合わせて、鳴きかたを決めてあるんだよ。男女比率はと聞けば、最初に鳴いた回数が男の比率。次は女の比率、みたいな感じでね」

「ちょ、ちょっとまってくれないか。それを実証してほしいな。」

「いいよ。じゃあそうだなじゃあ俺はあっちを向いてるから、適当な露店を三井さんが選んでよ。その露店に並んでるお客さんの数を、ショウに数えてもらおう」

 

「ええと、じゃあ向こうにある黄色いドネルケバブ屋のお客の数を数えてくれないか」

「おっけー。じゃあ三井さん、そのお店をしっかり指さしててね。ショウ、三井さんが指さしているお店の人数を数えてくれ。男、女の順でカウント」

 

「わん!」

 

ショウは大きくひと鳴きするとその小さな尻尾をパタパタと振りながらドネルケバブ屋の列を数秒ほど凝視し、赤人の前に座った。

 

「ははは、ほら、赤人君が無茶をいうからショウも困ってるじゃないか」

「三井さん、これは数え終わったっていう合図だよ。ショウ、答えを教えてくれ」

「わんわんわん! わん!」

「うん男の人が3人で、女の人が1人か。もう中で試合が始まってるし、それくらいしか人はいないよね」

「え……そんなまさか。いち、にぃ……。本当だ、男性が3人に、女性が1人並んでいる!た、たまたまじゃないのか?!」

「たまたまだとしてあんたに問題があるのかい? 仕事はちゃんとしてるじゃないか」

「わんわん、わん!」

 

「まあいいよ、分からなくても。でも、ショウは凄いし、俺とショウが力を合わせれば、もっと凄いことができるんだ」

「へえ……」

「ま。今回は、ショウとじゃなくて別の人と組む必要があるかな。三井さん、依頼のメールで俺にくれたリストの中に、紀三井寺小楽団って書いてあったよね? その楽団は自由に使っていいのかな?」

「ああ、紀三井寺小楽団ならウチのお抱えの楽団だからね、好きに使ってもらっていいよ。でも、コンサート用に最近雇った人達だから若いし、経験も少ないよ。人数も9人しかいないし……」

「それだけいれば十分だよ。これから集まれる?」

 

「楽団のみんなは施設で働いてるから。ま、だからつまりは素人なんだけど……。すぐ集めることはできるよ。でも、何をするんだい?」

「ふふふ、ちょっとやって欲しいことがあってね。楽団の人達はこれから忙しくなるだろうから、施設の仕事は人を増やしておいた方がいいと思うよ」

 

 

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