和歌の浦短歌賞 審査員紹介

東 直子

歌誌「かばん」所属。早稲田大学文化構想学部教授。第7回歌壇賞受賞。短歌の他、小説・エッセイ・戯曲・絵本等活躍の場を広げる。『十階』『とりつくしま』『鼓動のうた』『短歌の不思議』『晴れ女の耳』『七つ空、二つ水』等著書多数。20092011年「NHK短歌」選者、2011年より歌壇賞、2014年より角川短歌賞、現代歌人協会賞選考委員。現在「公募ガイド」で短歌投稿欄「短歌の時間」連載中。

東直子審査員からの特別メッセージ

毎年夏になると和歌山の祖父母の家に帰省して、その美しい海や川や山で、一夏中遊んでいました。先日、和歌山を舞台にした『晴れ女の耳』という短編集を出版しましたが、土地とそこに流れる血脈に書かせて頂いた気がしています。この度、その和歌山の地に集められた短歌を読ませていただく機会にめぐまれ、とてもうれしく思っています。和歌山の豊かな自然は、遠い昔から多くの人々の心を浄化し、癒してくれる神秘的な場所とされてきました。それは、テクノロジーの発達した現在でも損なわれることなく受け継がれている、命と心の財産だと思っています。こののびやかな土地で、今を生きるみなさまが作られる清新な短歌を、今からとても楽しみにしています。

藤原 龍一郎

1952年福岡県生まれ。3歳の時に東京に移住。19歳の時に中井英夫著『黒衣の短歌史』を読み、現代短歌に強い興味を抱く。1972年「短歌人」入会。現在、編集人。1990年、AMラジオ局のディレクターである「私」の日々の哀歓を抒情的に詠った「ラジオデイズ」30首により、第33回短歌研究新人賞受賞。歌集に『夢みる頃を過ぎても』、『東京哀傷歌』、『嘆きの花園』、『19XX』、『切断』、『花束で殴る』、『東京式』、『楽園』、『ジャダ』。ほか、詩人の柴田千晶とのコラボレーション詩集『セラフィタ氏』がある。

藤原龍一郎審査員からの特別メッセージ

 『万葉集』の時代から、和歌の浦は歌枕として知られています。そして、数々の和歌に和歌の浦は詠まれています。この和歌の浦の名を冠とした短歌賞ができたことは、歌人としてとてもうれしいことです。  
さて、歌人といえばどんな名前を連想するでしょう。与謝野晶子、石川啄木、若山牧水、北原白秋、斎藤茂吉等々、国語の教科書で出会ったことがありますね。あるいは、寺山修司や俵万智の名前におぼえがある方もいるかもしれません。一度でもこういった文学史上に名を残す歌人がつくった短歌をいいなと思ったことがあるならば、あなたも短歌をつくることができます。どうぞ、和歌の浦短歌賞にチャレンジしてください。みずみずしい感性で今の時代を表現した短歌と出会いたいと思います。

江 戸 雪

「塔」短歌会の選者。現代歌人協会会員であり、近畿大学非常勤講師も勤める。五冊の歌集のほか、入門書も刊行しており多くの読者を持つ。海外経験を経て描かれる短歌世界は耽美的であり、かつ人間の奥底を覗こうとする視線が見え隠れする。分かりやすい口語体を使いつつ、情感豊かで先進的な作風は、性別や年齢層を問わず共感を得ている。

江戸雪審査員からの特別メッセージ

日本最古の歌集『万葉集』に和歌の浦を詠った次のような歌があります。

和歌の浦に袖さへ濡れて忘れ貝拾へど妹は忘らえなくに 作者未詳(巻12-3175「忘れ貝」は、その貝殻を手にすると恋の苦しみを忘れることができるとされていました。「和歌の浦に涙で袖さえ濡らして忘れ貝を拾うけれど恋しいひとを忘れることはできないのだよ」という恋の歌です。読むと、恋をするひとの気持ちは当時も今も変わらないのだなとおもいます。またこの歌は、和歌の浦から見える海の輝きや潮の香りそして波の音と、恋しいひとを想う心のありようが美しく融合しています。短歌は、こんなふうに風景と心が一体となったとき大きな力を持ち、「たった一人の作者」あるいは「たった一人の君」が立ちあがってくるとおもうのです。 私は関西地方で生まれ、山や海を眺めながら育ちました。和歌の浦の海も身近な存在として身体のなかに息づいているようにおもいます。このたび、和歌の浦を詠った作品に出会える機会を得られたことを喜んでいます。そしてまた、歌を通して「たった一人のあなた」に出会えることを楽しみにしています